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未来の決定権を持つ男1

『未来の決定権を持つ男』の1話目です。
本編は【続きを読む】からです!


いつもの学校の帰り道。
夕焼けも、町並みもいつもと同じ。
でも今日はいつもとは違う。
わたしは今、なぜかとんでもない恰好をしているからだ。
話は少し前にさかのぼる。



終わりの会で悪魔が冷酷にその狂気を配っている。
「やっぱり無理だったぁ」
狂気のプリントを受け取った私は、机に突っ伏して気の抜ける声で呟く。
遂に返ってきてしまった。
予想はしていたが最悪の結果だ。

「まさか本当に0点なんて!」
いやぁ、正直一問ぐらいまぐれで当たってると思ってたんだけどね。
お母さんから次に算数のテストでひどい点取ったら、お仕置きだって言われてたのに……。
「どうしよー。テストがあったのはお母さん知ってるし、いつまでも隠すのは無理だよねぇ」
みんなが帰る支度を終えて教室を出て行くのを見届けながら一人考える。
帰る方向が一緒の友達が声を掛けてくれたが今日は遠慮した。
「このままじゃ帰れないよねぇー」
再び机に抱きつくわたし。
どうやっても、何度見ても結果は無情で変わることはない。
「考えててもしかたない!とりあえずぶらぶらと帰りますか!」
考えるのが苦手だったことに今更気付くほど、自分は残念なんだと気付けただけよしとする。

校門を出ていつもとは違う細い路地を通る。
早く家についても仕方がない。
時間を稼いで出来るだけ怒られる時間を減らすぐらいしか、今のわたしに出来ることはない。
背の高いビルとビルに挟まれた路地は日の光を通さず、薄暗い闇に包まれている。
普段通らない道なので周りを見渡しながら歩いていると、ふと先に不自然な人影を見つけた。
「なんだろう?」

そこには真っ黒なフードを被って机に座った怪しげな人がいた。
こんなのどっかで見たことある気が……。
「あっ!占い屋さん!?」
「おじょうちゃん、お客さんか?」
つい口に出ていたようだ。
「え?いや、違います違います!わたしお金持ってないんです!」
「お代はいらないよ。おじょうちゃんみたいな小さな子からお金もらっちゃ、大人として立つ瀬がないからねえ」
くぐもった男の声。
低くしゃがれた声で正直生理的に受け付けない。
それでもタダで占いと聞いちゃ黙ってらんないよね。
「じゃあ占ってください!わたし困ったことになってて!」
「なにに困ってるんだい?」
「テストで悪い点を取っちゃって……」
「それで、テストを見られて親に怒られたくないんだね?」
「は、はい……。」
「大丈夫。俺の占いは百発百中でね。未来のことがなんでも当てられるんだよ」
「じゃあこのまま帰ったらどうなるかもわかるんですか!?」
「少し違うな。説明が悪かったね。俺は未来が見えるんじゃない。未来を決められるんだ」
「は?」
「じゃあ試しに決めてみようか、未来を。『君は俺の言うことを信じる』」
「ふーん?でもまあ、初めっから頼るものなんてないんだから信じますよ?」
「そうか。では君がお母さんに怒られない未来を決めてやろう」
「お願いしまーす」
まあ当たればラッキーだし、外れてもどうせ予定通り怒られコースだからいいんだしね。

『君は今からわたしの言った通りの恰好で帰宅ルートを歩く。そしてある場所にたどり着くと君はとんでもないことをしてしまう』
「ん?どういう意味ですか?」
言った通りの恰好?どんでもないこと?どういうこと?



そうして今私は男の言った通り帰宅路を歩いている。
いつもの道を、異常な恰好で。
上はお気に入りのピンクのTシャツを、乳首の部分が出るように丸く切ってあり。
ミニのデニムスカートは真逆に折れ曲がっており、本来隠すべき所が一切隠れていない。
さらに言うなら、そこにあるべきパンツさえ無いのだ。
なぜならパンツは顔に被っているから……。
灰色のパンツは湿った部分が少し黒くなっており、シミができているのが一目で分かってしまう。
自分で言うのもなんだが、至近距離で嗅ぐと鼻が曲がりそうな臭いだ。

これは全てあの男の予言じみた言葉を聞いた私が、律儀に自分で準備した格好だ。
それもパンツは脱ぐ前に一度穴に軽く指を入れさせられた。
今までそんなことをしたことはなかったから、その恐怖は身体が勝手に動くことより強かった。
それでも身体は勝手に動き続け今に至る。

あの男は少し前を歩いている。
それもビデオカメラでわたしのことを撮りながら。
一見男はわたしに気付いていないかのように見えるが、男のリュックサックの中にはこちらが撮れるようにカメラがセットされているのをわたしは知っている。
録画ボタンを押してセットしなおすところを普通に眺めていたからだ。
一言文句を言ってやりたいが声が出ない。
誰かに出くわしてしまうんじゃないかとドキドキしながら歩くが、今のところその様子はない。
歩くたびになぜかお股から粘々のおしっこみたいなのが出てきている。
股のあたりが気持ち悪い。

そうこうしている内にようやく家にたどり着いた。
よかった、なにもなかった。
こんな恰好をしているが誰とも会わずに済んだ。
幸い家の周りにも誰もいないようだ。
それでもいつ人が来るかわからない。
ここは住宅街の真ん中だけど駅の近くだから、この時間は会社帰りのサラリーマンが多く通る。

祈るような気持ちで身体が動くのを待つ。
今やわたしの体はわたしのものではない。
自分の意志では全く動かない。
早く家の中に入らせて!そうずっと心の中で叫び続ける。

道の向こうに人影を見て血の気が引いた。
しかも一人ではない。
電車が到着したのだろう。
サラリーマンの大群がこちらに来ている。
まずい!そう思った瞬間身体が動いた。
よかった、これで家に入れる!
そのとき不意に見えた占い屋の男の口元が笑っていることに気付いた。

「みなさーん!ちゅうもーっく!」
はっ!?わたしの声?なんで!?なんでわたし叫んでるの!?
わたしの声に気付いたサラリーマン集団の先頭が、ギョッとした目でこちらを見て固まっている。
「今からショーを行います!みなさん見やすい位置に移動してください!」
初めは混乱していたサラリーマンたちも次第に各自見やすいポジションに移動していく。
わたしは自分の家を背中にして、サラリーマンたちはわたしを中心に半円を作っていく。
なぜか怪訝な顔をしていた人も、真面目そうな人もみな一様に期待した目でこちらを見ている。
中には携帯を取り出して撮影している者までいる。
「わたしの名前は下木 アリナ、五年生です!今日はここ、わたしの自宅前でみなさんに変態脱糞ショーをお見せします!」
は?もう、なにがなんだかわからない……。
自宅までばらしたわたしはただでさえ恥ずかしい姿にも関わらず、その場でガニ股になった。
サラリーマンたちが口々にわたしを罵る。
「そんな若いのに気が狂っちゃってたら将来ないなあ」
「おい!クソガキ!腰ふれ!腰!」
「す、すごい!毛が生えてないよ!」
「てかめちゃくちゃ濡れてね?」

わたしは右手を頭の後ろから伸ばし、人差し指と中指を上から鼻の穴に入れた。
一瞬何をしようとしているのか自分でもわからなかったが、すぐに痛みが教えてくれた。
そのまま持ち上げたのだ。
ようするに自分で鼻フックをしているのである。
それも生半可なものではなく本気でだ。
痛いなんてもんじゃない。
「ではわたしの無様な姿を見てみなさん笑ってください!」
そう言ってわたしは左手でピースを作り、媚びた笑いを繰り返しながら、肛門に力を入れ始める。
「ふんっ!ふんっ!んんんんーーー!」
無駄に大きな声をあげながら気張るわたしを見て、サラリーマンたちは腹を抱えて笑っている。
「いいぞ!アリナ!もっと気張れ!」
「ひっでー顔!超不細工になってるよ!」
「ピンクの乳首が尖ってるよ!舐めてぇー!!」
「おい!あいつ舌出してパンツ舐めてるぞ!下品すぎるだろ!」
「やっべー!俺こんなに起ったの久しぶりだ!」

あまりの騒ぎでご近所の人もちらほら出てきてしまった。
毎朝挨拶しているおばちゃんが汚いものを見る目でこちらを見ている。
家が隣通しで大親友のみーながわたしをみて嘲笑っている。
近所のよく遊んでくれる優しい大学生のお兄ちゃんが、サラリーマンと一緒になってビデオを撮りながら、おちんちんを触ってる。

遂に本当のわたしは部外者のように、淡々と成り行きを見るだけになってしまった。
そうしている内に遂にフィナーレが来てしまったようだ。
「出ます!臭いうんこ!わたしの汚ぱんつと同じぐらい臭いうんこが!ケツの穴からひり出されます!」
わたしの肛門からうんこが顔を出した時、外の異変に気付いたお母さんが扉を開けて出てきた。
「うんこーーー!わたし変態うんこしてるとこ見られて逝っちゃうーーー!はあああああ!!」
おしっことうんこをまき散らした後、更に透明なおしっこを勢いよく飛ばしたわたしは、その場で白目をむいて倒れた。
「うわっ!こいつクソして逝きやがった!」
「てか潮吹いたぞ!どんな淫乱なんだよ!」

わたしの身体がピクピク痙攣しているのがわかる。
痙攣が治まってくるのと同時に、身体に自由が戻ってきたことに気付く。
目線だけ家の方に向けると、お母さんが真っ白な顔をして立っていた。
目を反らしたくて目線を戻すと、占い屋の男と目が合った。
男は相変わらずフードを被っているので顔はわからないが、汚らしい口元が動くのが見えた。
何て言ったかは定かじゃないけど、きっとこう言ったんだと思う。
「これでテストの点を怒られることはないだろう?」
[ 2012/10/31 07:50 ] 小説 | TB(0) | CM(0)

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