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ダウト!16

遂に出来ました『ダウト!』最新話!
話の途中で長らくお待たせしました!
これで教授編は終了です!
本編は【続きを読む】からだああ!



幸せってなんだろう。

おじさんは誰かを幸せに出来たのかな。

教授のことが気になって、あいつの周りをウロチョロしていた時期もあった。
あいつは幼女を壊すために能力を使う。
許せないと思った。

でも、おじさんも同じなんじゃないか。
おじさんも、能力に溺れてたんじゃないか。

おじさんは誰かを幸せに出来たのかな。

少なくとも、こうして一人になって……。
今おじさんは、幸せだとは言えないや……。


ゴミだらけの川を眺めながら、根城である段ボールに包まっている。
少なくとも雨は凌げる橋の下。
道行く人はおじさんのことなんか見えてない。

三日は何も食べてないかも。
この前食べたのは……キノコ?なんだっけ?
もう、考える力も無くなってきた。


「不様ね……」
やばい、幼女に罵倒される幻覚まで……。

「初めゴミかと思ったじゃない」
ゴミでふ。
ゴミなおじさんをもっと叱って……。

「ほら、起きなさい!」
えー?
あと五分だけー。

「起きなさい!じいや!」
「え?」
じいや?

ぱっと目を開けて声の主を仰ぎ見る。
白い……それはとても白くて、でもどこか懐かしい。
純白、曇りの無い白。
いや、違う。
うっすらと見える染み、それがなければ芸術は完成しない。
そう、その少し窪んだ一筋の線に全てが……宇宙?

「宇宙ですか?」
「なにが!?」
思い出した、これは宇宙では無い。
それすらもひれ伏す、これの名前は……。

「ぱ、ぱんつですね?」
「やっぱ死ね!」
「がふっ」
ぱんつに蹴られた?
いや、ぱんつから生えたこれは?
あ、足?
生足!?
それにこの小さく愛らしいこれは……幼女!?

「ようjぁdkさい!?」
「日本語でオケ?」
「え?あ、イチゴ?」
イチゴ……懐かしいなぁ。
身長伸びた?
怒った顔が相変わらず可愛いなぁ。

「やっと目が覚めた?」
「え?はっ!」
やばい、逃げよう。

「逃げてもいい、でも話ぐらい聞いて」
「……」
早くこの場を離れるんだ。
だっておじさんはもうこの子たちと関わってはいけない。
この子たちを幸せに出来ない自分なんて。

でも……もう少し聞いていたい。
この鈴が鳴るような心地よい声を。
罵倒でもなんでもいい。
この声を……。

「なんで逃げているのか、だいたい予想はつく」
「……」
「能力、つまり私達を操っていたなにかが使えないんでしょ?」
頭のいいイチゴはやっぱ気付いてたか。
別に能力のことを内緒にしてたわけでもないけどね。
でも失ったことまで言い当てられちゃうか。

「私達に復讐されるとでも思った?」
「違う」
「じゃあ……好きに操れない私たちなんて……」
「違う!」
「そう、じゃあいい。それだけ聞ければ私は満足」
「え?はい?」
「それなら大丈夫だって言ってんの」
「なにが?」
最近の子はわからん。
妙にミステリアスぶりよってからに。

「じゃあ逃げていいわよ」
「なにがしたかったの?」
「確認。私の大切な友達が、必死に探すのに見合った人だったかどうか」
そう言ったイチゴは軽く伸びをしてから言う。

「さあ、精々逃げまどいなさい?女はしつこいのよ?」
「え?あの?ん?」
「鬼ごっこ。捕まったら負けよ?」
え?じゃあもう捕まってんじゃない?

「あぁ!ほんまにおったでぇ!?」
「イッチー!しっかり捕まえとけよ!」
「コユキ?コナツ?」
まずい、あいつらは本気で捕まえようとしてる。

「あぁ!逃げよったぁ!」
「こぉら!イッチー!ちゃんとつかんどけや!」
「ごめんね?逃げられちゃった」
やばい、最近運動不足だからすぐ追いつかれる。

「ユキの足に勝てると思うなやぁー!?」
「ってコユキ遅っ!置いてくで!?」
「待ってぇやぁー」
コユキは問題ないが、コナツには追いつかれる。
ここは……。

「失敬!」
「え?おい!俺の自転車!」
「こいつには悪霊がとりついている、祓っておいてあげよう」
「え!?そうなの!?」
「いつかここに置いておくからあああ!」
取り合えずこれで逃げ切る!

「嘘に決まってるやろおがあああ!」
コナツが猛ダッシュで追いかけてくる。

「はぁ!はぁ!」
「おっさん!」
後ろから懐かしい関西弁が聞こえる。

「ウチ!感謝しとんねんで!?」
「え?」
「おっさんのおかげで!おもろくなったと思う!」
「おじさんはなにもしてない」
「少なくとも関西弁はちゃんと喋れとる!」
「それだけじゃないか……」
河原をグルグル回りながら逃げまどう。
本気を出せば、すぐに振り切れるだろうに。
未練を残すようにグルグルと……。

「はぁ、はぁ、おっさん!」
「コユキ……」
すぐそばにコユキが来る。

「ユキな!?今人気モノやねん!」
「……」
「正直人としゃべるのも恥ずかしいぐらいやったのに!今ではなんも恥ずかしくない!」
「ウチもや!もう恥ずかしいことなんかなんもない!」
「……」
「だっておっちゃんとおった時の方が!恥ずかしいことばっかさせられとったから!」
「ごめんよおおおお!」
逃げ出しました。
ごめんなさい。
調子に乗って恥ずかしいことさせて。
やっぱもう顔向けできない。


河原を自転車で走り抜け、なんとか二人の追跡を免れる。
取り合えず街の方に逃げようか。

「いたあああ!」
「ぬあっ!」
いきなり自転車の進行方向に、仁王立ちで現れた美幼女。
長く伸びた髪と、ちょっと分厚い唇がいかにもリア充ですと言わんがばかりな……。

「おじさん!おひさっ!」
「え?だれ?」
「ひっどおおいい!マリサのこと忘れたの!?」
うっさい。
確かにこの五月蠅さはマリサだ。

「え?マリサ?こんな可愛くなっちゃってからに……」
「そう!?えへへぇ!」
「じゃ、おじさん急いでるから……」
「うん!またね!」
そーっと横を通ろうとする。

「って!騙されんな!」
「へぇ?」
「やっべ!」
現れたのは見た目は美少年、心は美少女、頭脳はバカの厄介なやつ。

「ヒカリちゃん!おじさん捕まえて!」
「任せろマリサ!神妙にしてろ!?じっとしてたら怪我はない!」
「うそだああ!」
妙にボコボコな金属バットを引きずりながらやってくるその様は、無事で済ます人間の姿ではない。

「キャハハ!やっちゃえ!ヒカリちゃん!」
「げっへっへ!追いつめたぞ!?」
「すんません!すんません!」
二人の美幼女に壁側に追いつめられる。

「やっぱ楽しいね!」
「だな!こうじゃなきゃな!」
「え?」
「おじさん!またマリサと遊んでよ!」
「なに悩んでんだか知らねぇけどよ?笑えや」
「な……」
「笑えって!楽しくないか?オレらと遊ぶの」
「遊び?」
「鬼ごっこだよーって、イチゴちゃん言わなかった!?」
「なんだよ、少し見ねぇうちに湿気た顔になりやがって。オレはな、笑ったお前が好きなんだ」
「マリサもだよ!おじさんが笑ってるとね!みんな安心するんだよ!じゃあいいやぁって思うんだよ!」
二人は大人になったね。
マリサもヒカリも、ただのバカだと思ってたのに。
今ではこんなに……。

「おうっしゃあああ!」
「ひええええ!」
今……おじさんの頭があった場所に、バットがフルスイングしなかったですか?

「おっしいなぁ、もうちょっとで頭とれたのに……」
「ドンマイ!ヒカリちゃん!」
「え?あの……今の、咄嗟に頭下げなきゃ死んじゃって……」
「は?鬼の首を取れば勝ちだろ?」
「いっけええ!ヒカリちゃん!」
「鬼は捕まえる方のお前らだろうに!」
こいつらやっぱただのバカだ!

「あ!逃げたぞ!追うぞ!マリサ!」
「はいさああ!」
殺される!
ここまで怨まれていたとは!

「おっじさーん!」
後ろでマリサの呼ぶ声がする。

「大好きー!」
え?
聞き間違い……だよね。

「逃げられちまったか」
「ふふっ。捕まえる気なんて無かったくせに」
「簡単に捕まえたら面白くねぇだろ?」
「そうだよね!」
「しっかし、いきなり告白か?」
「マリサ、もう子どもじゃないからね」
「あ?」
「キミちゃんのことも好きだけど、譲れないものもあるってこと」
「そうだな、オレも……」
「負けないぞって?」
「そんなとこだ」
「素直になったねぇ……」
二人の会話は聞こえないが。
なんにせよ追跡は諦めたようだ。
ここは逃げねば!


しばらく自転車で走った先に公園があった。
少し休むか。

「ふぅ……」
「汗だくなのぉ、たおるたおるー」
汗でベタベタになった顔をそっと柔らかいタオルで拭いて貰う。

「あぁ、いい匂い……」
「ちゅうどくせーがありますゆえー」
「それは注意が必要だね」
さっきまでは慌ただしかったけど、今日はいい天気だなぁ。

「おちゃのむー?」
「あ、どうぞお気遣いなく……」
やばいよね?
いや、気付いてたよ?
どうやってなんともなかったかのように逃げようかと思ってたんだ。

「ミーナの発見なんだよぉ?学校に持っていく水筒にね?ジュース入れててもばれないっぽいのぉ」
「それ、流行るとばれるから気を付けてね?」
「ははぁ、策士ですなぁ……」
「じゃ、おじさんはこの辺で……」
「おじさん……」
そっと裾を掴まれる。

「ミーナね?友達一杯出来たよ?」
「そっ……か」
「おじさんのおかげ?」
「ミーナが可愛くて魅力的な女の子だからだよ」
「だけど四人目はおじさんなのです」
「なんの人数?」
「友達。マリサちゃんとヒカリちゃん、カリンちゃん。次におじさんだよぉ?」
「おじさんは……友達じゃないよ……」
「おじさん、ミーナに変なことさせたよね?」
「……」
ミーナの瞳が突きささる。
しかたない、当然の報いだ。

「でもミーナはおじさんを許します」
「え?」
「だってぇ、友達だろぉ?」
「ミーナ……」
その笑顔は一点の曇りもなく、その言葉に偽りが無いことを表している。
おじさんはミーナを抱きしめようとそっと近づき……。

「そこまでです、通報しますよ?」
「すいませんでした!」
土下座した。

「まったく、変わってませんね、先生は」
「サヤカ……」
髪が伸びて凄く綺麗に見える。
でも笑った顔はやっぱり幼さがあって。

「サヤカちゃんも呼んどいたぜぇ?」
「御苦労です、ミーナさん」
「あ……」
逃げなきゃ……。

「なんで逃げてるのかは知りませんし、知りたいとも思いません」
「うっ」
ピシャリと言い切るその言葉に一瞬足が止まる。

「でも、話したいと思うのなら、聞いてあげますよ」
「……」
「ところで、わたくし事ですが、好きな人が出来ました」
「え?」
やばい、今日一でショックな言葉かもしれない。

「その人が、私の為に先生を捕まえると言っていました」
「ぬぬ?」
そう言われると捕まりたくない度がアップする。

「あの人は優しい人ですから」
そうですよね、おじさんはどうせ優しくないですよ。

「可哀そうな私を放っておけないらしいです」
どうせおじさんは放っておきましたよ。

「それに……可哀そうな先生のことも……」
別にそいつに心配される言われはありませんけどねぇ……。

「その人からの伝言です。どうせ直接は言ってないでしょうから」
「え?」
「夢を見つけてくれてありがとう。今度は、私がじいやの夢を叶えてあげる」
「イチ……ゴ?」
そこにはさっきまで河原にいたはずのイチゴが。

「あれ?来たんですか?」
「私の言葉を勝手に伝言しないでよね」
「すいません、素直じゃないイチゴさんはきっと自分では言わないでしょうから」
「それぐらい自分で出来るわよ。もう……」
目の前で変にいちゃつき始めた二人。
あ……そういう感じになりました?

「あのねぇ?イチゴちゃんとサヤカちゃんはゆりゆりなんですよぉ?」
ミーナが補足してくれた。

「ま、まぁ、私が言いたかったのはですね。先生のおかげで出来た縁もあるということです」
「サヤカ……」
みんな、許してくれるのか……。

「今、許してくれるとか思ってたでしょ?」
「うっ」
イチゴが目ざとく指摘する。

「私達はね、別に初めから怒ってないわよ」
「そうですね、怒ってないです」
「え?」
「じいやは私に変なことさせたけど、それを正当化しようとした?」
「え?」
「私に変なこと吹きこんだ時も、別に許せとは命じませんでしたよ?」
「あぁ、そう言えば……」
「怒るなとは言ってましたが、許せとは言ってません」
「じゃあ……」
「それでもその後色々付き合ったでしょ?運動会とか、意味わかんないの」
「私も色々やらされましたねぇ」
「なんで、二人は……」
「先生と遊ぶのが楽しかったからです」
「じいやには貸しがあるからね」
涙がこぼれそうになる。
もう、全てをぶちまけてもいいんじゃないか……。

「あ、やばい……」
「え?」
「先生、逃げた方がいいですよ?」
「なんで?」
さっきまでニコやかに笑っていた一同が凍りつく。

「悪鬼が……こちらに向かっています……」
「あの二人は……私も止められないわね……」
「ミーナは血が苦手なので帰りますねぇ」
なんとなく察しがついたので、逃げようと自転車の方へ駆けだす。

すると大きな音と共に自転車が弾け飛ぶ。
グシャッと曲がった自転車が公園の壁にぶつかり大破する。


「見ーつけた……」
「あまり手こずらせないでくださいよ……」
笑っている。
ひどく、笑っている。

特に武器を持っているわけではない。
別に威圧的な服装をしているわけでもない。

ただ可愛い幼女二人が笑いながらこちらに向かって来ているだけ。
その金髪の幼女と黒髪の幼女は、人殺しの目をしていた……。

「ごおおめえええんんんなああさあああああい!」
逃げようとしても腰が抜けて立てそうにない。

「まったく、なにビビってんだ?あぁ?」
「小悪党にビビっているのではなく、私にですよね?」
「誰が小悪党だ!」
「サイカ、いたんですか?」
「ずっと一緒だっただろうが!」
やばい、カリンが違う世界の住人なのは言うまでも無いが、サイカまで……。
自転車を拉げさせ、ぶっ飛ばしたのは他ならぬサイカだ。
こいつ、カリンといたせいで無駄に戦闘能力上げてる……。

「まぁ落ち付けよ、おじさん」
「そうですよ?師匠。なにも捕って喰おうっていうんじゃないんですから」
「ち、違うんですか?」
「一発でいい」
「そうですね、一発で許します」
「天にまします我らの父よ……」
目を瞑って神に祈る。
大衆とはこうも小さく無力なのだ。
一方的な暴力には、誰も勝てないのだ……。

「「チュッ」」
「え?」
ステレオで聞こえた可愛らしい音と共に、ほっぺに柔らかいものが当たる。

「これでチャラだぜ?」
「……なんで?」
「細かいことは気にしねぇ、ただ、お前といると面白い。ヒカリも同じこと言ってただろ?」
「ほんとバカだね、サイカは……」
「あぁ、バカだから、わかってる。バカだから、言われたことしかうまく出来ねぇ」
「なんのこと?」
「姉ちゃんと約束した。仲間は死んでも守り抜く。お前が困ってんなら、私は全力でお前を助ける。それが私の知ってる格好いい不良ってもんだ」
サイカ……。

「師匠、私はあなたの強さに惹かれた。その心に嘘は無い。例えあなたの言葉の全てが嘘でも、私はその強さを知っている。腕っ節や、技なんかでは無い。その心の強さを」
「心も操れるんだよ……おじさんのことを尊敬するのは、そうおじさんが仕向けたからで……」
「馬鹿にしないでください。私達にかけられていた魔法の様ななにかは、すでにとけています」
「え!?」
「身体も元に戻ってますし、心も元に戻っています。それでも、私はあなたを師匠と呼び、その強さに憧れると言っているのです」
「なん……で?」
「さぁ、間違ってるのかもしれません、でも……後悔はしないと、決めました。だから信じます」
カリン……。

「お、ここにいたのか!」
「ヒカリ?」
「遂に捕まったのな?時間の問題だとは思ってたけど」
「ヒカリ……」
「尻、治ったぜ?おじさんのせいだったんだろ?」
「そう……だね」
「でもまぁ、いいよ。治ったんだし。それにちょっとは女っぽくなっただろ?」
「え?どこが?」
「やっぱ死んどくか?」
「ごめんなさい」
「良くも悪くもさ、自分が女だったんだって思い知らされた。だから、これからはもっと女を磨く。気付かせてくれたのは、おじさんだろ?」
ヒカリ……。

「ここにおったかぁ」
「はぁ、今日めっちゃ走ったわ。もう動きたくない……」
「コユキ、コナツ……」
「なんや締めの雰囲気やなぁ」
「ええこと言って終わる感じやな!?」
「ほなユキらもなんか言わな!」
「そやな!えぇっとぉ……」
「あの!あれや!その!」
「なにもないならそれでもいいんだよ?」
「ちゃうって!あるって!」
「そうやでぇ?あのなぁ、あれ、そうや!おもろなった!」
「それさっきもう言うてもうてるやん!」
「二人は関西弁治らなかったの?」
「一瞬治ってんけど、自力でまたマスターした!」
「一回喋ってたから入り易かったわぁ」
「これがおっさんがウチらにくれたもんってことやな!」
「あかん!ナッツ!多分ユキらグダグダや!」
「そ!そんなことない!きっと今頃感動しまくってるはずや!」
「そんなわけあるかぁ!やってられるか!」
「「ありがとうございました!」」
コユキ、コナツ……。
感傷に浸ってた雰囲気をぶち壊しやがって……。


「みんな大集合だね!」
「あ、マリサ……」
「おじさん!マリサね!おじさんのことが好き!」
「え?」
「いなくなって、そう思った。あぁ、好きだったんだって」
「違う……」
「違わない。これは私の気持ち、大切な、大切な想い。だから誰にも否定させない」
「なんで?」
「すっごく!愛してるって!想ってくれてるから!」
「え?」
「こんなに好きだよって!想って貰ったの初めてだったから!」
「あれ?え?」
「ん?おじさんって、マリサ達のこと大好きでしょ?」
「あ……うん……」
「ちゃんと、伝わってたよ?おじさんの気持ち。ちょっとやり方は変だったけど、人から見たら歪んでたかもだけど、少なくとも私には、大好きだなって思えるぐらいに、伝わってたから」
マリサ……。


「そうだよ……」
後ろから、震える声がする。

「いつも好きだって言ってたじゃん!私達のこと!私のこと!それなのに!なんでいなくなるの!?」
きっと涙で濡れているであろうその顔を、振り返って見る勇気が無い。

「私……本気で好きだったんだよ?」
その長い指が肩に触れる。

「操られてたんだって全部わかった日、おじさんがいなくなったあの日、自分が操られて変なことさせられてたってこと、怖いって思った」
指に力が入り、肩が少し痛む。

「でも、それ以上に怖かったのは、この気持ちが無くなるんじゃないかって思った時……」
「え?」
「おじさんのこと好きな気持ちも、操られてたからで、それがなくなったら消えちゃうんじゃないかって……」
「……」
「でもね?消えてないよ?今でも……ちゃんと好きだもん……」
「キミ……」
そっと名前を呼び、その手を握る。

「会いたかったよぉ!ずっと!ずっと!」
「ごめんな。おじさん、間違ってた」
泣きじゃくるキミを正面に見据え、頭を下げる。

「おじさん、もういなくならない?」
「いなくなんかならない。もう、間違えない」
そう言ってキミを抱きしめる。

そうしておじさんはみんなに話した。
あの日あったことを。
その後、なんでみんなを避けていたかを。



「ようするに、もう私達を幸せに出来ない自分が、関わるべきではないから避けていたと?」
「そうです」
「馬鹿だなぁ」
「バカだろ!」
「バカあ!」
サイカとヒカリ、マリサに言われると癇に障る。

「で、あほなおっさんはこれからどうするつもりなん?」
あとコナツにあほ呼ばわりされるのも耐えがたい。

「まぁじいやがとるべき行動は二通りね」
「それはなんですか、博士」
「だれが博士だ。今のままで、普通のダメなおやじとして私らと遊びつつ、いつかは通報されるか……」
「そろそろその生活は終わりそうですね」
すでに周りの大人たちの目線が痛い。
公園で幼女に囲まれて正座するおじさんは、いやに目立っているのだ。

「あとは能力とやらを取り戻すかですね」
サヤカがそう言いながら携帯を弄っている。
さてはやる気無いな?

「キミはね!キミのお家で暮らせばいいと思うよ!?」
「ずるい!マリサのお家がいい!」
両サイドから引っ付いてくるこの子ら二人が、通報を速めている気がしないでもない。

「てかキミのお父さんは大丈夫なの?おじさんの力が無くなったってことは……」
「カリンとサイカに半殺しにしてもらったから、もう大丈夫」
ニヤッと笑う二人とは目を合わさないようにする。
こいつらがなぜシャバの空気を吸っているのかがわからない。

「よくわかんなかったんだけどさぁ、ようはその教授とかいうやつから力を取り戻せばいいんじゃね?」
「ヒカリはバカの上に話を聞いてないから困る……」
「んだとっ!?相談乗ってやってんのになんだその態度!」
ヒカリが地団太を踏んでいる。
バカダンスと名付けよう。

「ヒカリさんはバカだけど、その通りじゃない?」
「イチゴ?なんかいい案でもあるの?」
「今は無いわね。でも、可能性はある」
「可能性って?」
「じいやの力は嘘を本当にするっていうとんでもない力でしょ?」
「はぁ」
「そんな力でもやりようによっては奪えたんだから、逆も出来るんじゃない?」
「そう簡単には……それに向こうはそれを無効化する力を持ってたんだし……」
そう、あの教授には嘘が通用しない。
だからこそ窮地に立たされた。

「あんなぁ?ユキ話聞いてて思ってんけど、なんでおっさんはそんな人とバトったりしたん?」
「あぁ、ウチも同じこと考えてた。逃げりゃあよかったのに」
「え?あぁ、それは……なんでだっけ?」
あれ?思い出そうとしても思い出せない。

「なんか誰かを助けようとして行った気が……」
「誰かって誰なんですか?」
「私らの中の誰かか?」
「いや、違うんだよなぁ……」
その人物のことが思い出せない。
あれ?

「おそらく、教授に奪われた能力で、記憶を操作されてますね」
「そう考えるのが妥当ね。その人物を特定しましょう」
サヤカとイチゴがバカを無視して話し始める。

「その場所に行ってみるのが一番じゃないですか?」
「でも危険ね。そこって、今では教授の縄張りなんでしょ?」
「教授のことを探る意味でも、有効かと」
「ダメだ!」
つい大声を出してしまった。

「なんでです?」
「みんなを危険に巻き込むわけにはいかない……」
「五月蠅い!浮浪者風情が姫である私に口答えするな!」
なぜかイチゴが姫モードに突入した。

「あぁ、イチゴ姫たん最高です……」
「サヤカは姫なイチゴが好きなんだね」
「自分のこと姫とか言っちゃう痛いところが可愛すぎます!」
「う!うるさい!だまれだまれ!で!?どうすんの!?行くの!?行かないの!?」
壊れたイチゴは置いといて、おじさんの意見は却下の方向で話が進む。

「じゃあみんなでわかれて行動することにしましょう」
「お、久々にイーンチョだな?」
「みんなのリーダー織部サヤカに清き一票をです」
「具体的にはどうわかれるんです?」
カリンが乗り気だ。
恐らくその爛々と輝く瞳からして、戦闘出来ると思っているに違いない。

「まずは情報収集班ですね。これは小回りが利いて、戦闘能力も多少ある人が適任かと」
「オレらしかいねぇな!」
「ここで出なけりゃなんのために特訓したのかわかんねぇからな!」
「私がいれば全て解決ですね」
ヒカリ、サイカ、カリンが情報収集に出るらしい。

「いえ、カリンさんは残った方がいいですね」
「んなっ!なぜです!」
せっかく暴れられると思っていたカリンが、焦り始める。

「情報収集とは言え、敵の本拠地に侵入するんですよ?しかも向こうは人を操る能力を持っている。主戦力のカリンさんが捕り込まれでもしたらどうするんですか?」
「主戦力……ですか……」
悪くない、といった顔をしている。

「カリンさんは待機組ですね。後は教授を見張る班を構成しましょう」
「教授が戻ってくるまでに情報収集しなきゃだもんね」
「じゃあマリサがやるー!」
「と、言った風に五月蠅い人には不向きです」
マリサが一瞬で候補から外れた。

「ここは連携もしやすい、双子のペアで行くのが妥当でしょうか」
「お!ウチらの出番やな!?」
「やったるでぇ、バッチバチにしたるわぁ!」
「キミさん、バカ二人を見張っててくれますか?」
「見張りやのに見張りつけられた!」
コナツとコユキ、キミの三人が見張り班となった。

「残りの人は待機ですね」
「どこで待機するの?そろそろマジでおじさん通報されそうなんですが……」
「じゃあ私の家にしましょうか」
「え?サヤカの?」
「ウチは共働きで、この時間は誰もいませんしね」
と言うことで、それぞれが持ち場に着くこととなった。



「チームココナッツエッグ、持ち場に着きました」
「よろしい、教授は見えますか?」
「ちょっと!なにそのチーム名!キミを変な団体に組み込むの止めてくれる!?」
「ちょっとキミー、うるさいでぇ?」
「そうや、ばれるやろ?」
「もう一度聞きます。教授は見えますか?」
「すまん、総司令、該当人物見たことないからわからへん」
「白衣を着た人物は見えますか?」
「いや……ん?あれか?」
「見えましたか!?」
「あぁ、白衣を着た人物が玄関を出てきたみたいや」
「一人ですか?」
「そうやな、一人みたいや」
「追跡は可能ですか?」
「出来る限りやってみる」
妙にコナツがノリノリだ。
恐らくあの迷彩服は街中で浮くと思われるが、頑として着替えなかった。

「教授は調査の際に我々の顔を把握してると思われます。慎重に行動してください」
「了解や」
携帯での連絡を終え、サヤカはイチゴを見る。

「イチゴさん、サイカさんたちはどうですか?」
「今進入できそうな経路を探してるよ」
「うまくいきますかね」
「教授がいないなら大丈夫だろ」
「そう簡単に行けばいいのですが……」
幼女達に頼ってなにも出来ない自分がむなしい。
でも、なんでだろう、なにもしないでいたあの時より、だいぶ心が軽いのは。




「はぁ、最近めっきり熱くなりましたね」
独り言を大きな声で呟く私を、道行く人がチラッと見ては何事も無い顔で去っていく。
普通なら周りの目を気にして、同調するのが世の常ですが、こんな力を手に入れてしまった今、なにを気にする必要があるでしょうか。

「熱いですがお仕事優先ですしね。それに今日は最後の日ですし」
そう、今日はいつもとは少し趣が違う。
遂に私は全ての愁いを無くすことが出来る。
まぁいつでも出来たのだが、急いでやってしまっては面白みに欠けると、少しずつ行っていたのだ。

ココロとキズナ、そしてエマ。
この三人には共通点がある。
私が心を治しきれなかった三人。

私が研究の副業として行っていたカウンセラーもどきのような仕事の中、彼女達だけは根っこの部分を変えることは出来なかった。

しかしこの力はそんじょそこらのチャチい話術とは違う。
心を簡単に壊すことが出来る。

壊れた心は悩むことも苦しむことも無い。
ただ、漠然とある毎日を何も考えずに生きられる。

そして今日は四人目。
私の言葉が届かなかった最後の一人。

あぁ、着きましたね。

忘れることなど出来ない。
この懐かしくも忌々しい孤児院。

「あれ?あなた……」
「久しぶりですね、ナナ……」
「なにしにきたんですか?もうあなたに用はありません……」
とある事件が元で親を亡くし、この孤児院に来た幼女。
大人を信じることが出来ない子。
私の言葉を初めから聞こうともしないで、塞ぎこんでしまった子。

「まぁそう言わずに、案内してくれますよね?」
力を込めてそう言うと、ナナは嫌々ながらも従ってくれる。

「でも、扉開けれない……」
「扉なら簡単に開きますよ?」
私の能力を前にしたら、こんな鍵ごとき無いも同然です。

「なんで……?」
「気にしないでくださいな」
さあ、今日で終わらせましょう。
あなたが作り上げた見せかけだけの空っぽな毎日を。



「総司令!目標が建物に入って行きました!」
「なに?どこの建物?」
「これは……孤児院?」
「なるほど、教授も先生と同じで、ただのロリコンのようですね」
「返す言葉もございません……」
サヤカの部屋でぱんつを物色しようとしていたが、みんなに睨まれて未遂に終わる。

「他に出口はありますか?」
「ん?なんか孤児院にしては妙な感じが……」
「コナツさん、あなたそんなに孤児院に造詣が深いわけではないでしょう?」
「いや、壁が……なぁコナツ、変やんなぁ?」
「そやね、なんかこれやったら……」
「刑務所みたいや……」
「あ、キミーが帰ってきた」
「キミさんに代わって下さい」
「あ、もしもし?サヤカ?今施設の周り一周したんだけどね?出入り口は正面玄関だけみたいだよ?」
「そうですか、なにか変わった施設みたいですが……」
「それは今関係ないでしょ?教授が出てくるとしたらここだけ。私ら見張ってるから、サイカ達を突入させても大丈夫だよ」
「わかりました。気を付けて下さいね?なにがあるかわかりませんし」
「オッケー。任しといて」
電話を切ったサヤカは、イチゴに目配せをする。

「もしもし?ヒカリさん?教授はしばらく大丈夫そうだから、突入して貰っていい?」
「おう!待ってました!行くぞ!サイカ!」
「へへ!隠密行動だろ!?静かにしろよ!ヒカリ!」
「二人ともだよ。ばれたらどうなるかわかんないんだからね?中に人がいてもおかしくないんだから」
「ラジャー!」
心配だなぁ。



「おう、なんか昼間なのに薄暗いなぁ」
「そうだな。廃病院とか普通に心霊スポットじゃんかよ」
「怖いこと言うなよなぁ」
私はヒカリの後ろに隠れるようにして、壊れた裏口から廃病院に侵入する。

「ここからはまじで小声な?教授の手下がいるかもだし」
「おう、わかってるって。てかなにを探せばいいんだ?」
「なんでもいいよ、変わったもんが無いか探すんだろ?」
静かにしてないとやばいんだが、変な緊張感がある為話してないと落ち着かない。

「てかお前引っ付き過ぎだよ。なに?怖いの?」
「バカか、こ、これは、その……」
「サイカも結局女の子だねぇ?」
「うっさい、バカ……」
二階に到着した時、物音が聞こえた。

「誰かいるな……」
「あぁ……」
病室と思わしき一室から、話声が聞こえる。

「お姉ちゃん!今日はどんな遊びをするの!?」
「そうねぇ、じゃあ、お姉ちゃんとお医者さんごっこしようか?」
「おもしろそう!」
どうやら私らと年の変わらないやつの話し声みたいだ。
教授の手下……と言うよりは、毒牙にかかった被害者のようだ。

「じゃあココロはそこに寝ていてね?」
「はぁーい」
「じゃあいらない足は取ってしまいましょうねぇ?」
「えぇ?ココロの足いらないのぉ?」
「腐って壊死しちゃうから、取っちゃわなきゃいけないの……」
「そうなんだ!じゃあお姉ちゃん!取って!」
「えぇ、そぉれ!」
ドン!

「いぎゃあああああ!」
大きな音がしたと思うと、ココロと呼ばれた女の子の悲鳴がした。

「なんだ?」
「入るか?」
「いや、ばれると厄介なんだけど……」
二人で扉の前でキョロキョロする。

「あれぇ?取れませんねぇ?」
「お姉ちゃん……金槌じゃあ足は取れないよ?」
「そうかなぁ?じゃあどれにする?」
「ばかだなぁ、足を取るなら、ノコギリでしょ?」
なにを言っている?
まさか今の悲鳴は……。

「おい、ヒカリ」
「なんだよサイカ」
「入るぞ」
「な、なんで?」
「もしかしたらあいつら、本気で足取ろうとしてねぇか?」
「怖いこと言うなよ……」
「でもそうだとしたら……」
「しゃあねぇなぁ!」
「いくぞ!」
バンっ!と勢いよくドアを開けて、部屋の中に入る。
そこは真っ白い病室だった。
ただただ真っ白な病室に、赤い血が飛び散っている。
それも今飛び散った物だけじゃない。
それらは染み付き、黒ずんでいたり、そして今、少女の足から流れ出ていたり……。

「な……なにやってんだ……?」
「あれ?お客さん?」
「エマじゃないみたいね?教授先生が他の子を招待するなんて珍しい」
「おい、お前……」
「え?ココロのこと?」
「痛く……ないのか?」
「痛いよ?手術だもん」
「手術ってそれ……ホントに……足が……」
「なに?私達の遊びに文句があるの?」
やばい、こいつらまともじゃない。
二人とも目が逝ってやがる……。

「ヒカリ!やるぞ!」
「は!?な、なにを!?」
「こいつら黙らせる!」
「ちょっ!なんで!?」
「放っておいたら続き始めんぞ!?それでもいいのか!?」
「そりゃやばいだろ!流石に!」
「なぁに?私達の邪魔をするの?」
「お姉ちゃん、私この子達嫌い」
「そうね、じゃあお姉ちゃんが消してあげるね?」
そう言うと同時に、金槌を持った女がヒカリに襲いかかる。

「うっげ!ま!マジで金槌で殴ってきやがる!」
「大丈夫か!?ヒカリ!」
「あぁ、こんなやつぐらい、金槌持ってるからってハンデにもならねぇ!」
「頼もしいねぇ!」
大丈夫そうか、私は取り合えずあのココロってやつを、病院に連れてってやらねぇと。

「アナタタチ、ナニヲシテルノ?」
やばい……。
直感でわかる。
まだ見えても無いが、声の雰囲気だけで理解出来る。
こいつ、私達を殺そうとしてる……。

「くっ!」
私は振りかえりざまにその声の主にタックルする。

「なに?私に刃向かうの?」
「おいおい、よろめくぐらいしろよな……」
そこに立っていたのは普通の少女。
ただ、右手に持った拳銃を除けば……だ。

「おい!ヒカリ!」
「な!なんだ!?」
「そっちの二人、任せるぞ!?」
「おう!ってか大丈夫か!?」
「サイカ様をなめんじゃねえ!本当の喧嘩ってやつを教えてやるよ!」
私はイカれた拳銃女に飛び蹴りする。
女は器用にガードしながら部屋の外に出た。
その隙間を縫うようにして私も部屋から出る。

「おうおう!悔しかったら追ってきな!」
「……殺す」
「わっひゃああ!本気で撃ってきやがった!」
弾丸に追われながら走るとか、カリンに言ったら羨ましがるだろうな。



「ってことで、オレはお前を倒して、あのバカを助けに行かなきゃならねえんだわ」
「お姉ちゃん、それ取ってぇ」
「いいわよ?ココロ」
オレのことは完全に無視ですか?
てかなに取ってんだ?
え?嘘だろ?

「えい!」
ココロとやらが投げたそれは、オレの顔にギリギリかするようにして壁に突きささる。

「おっしいなぁ」
「ココロ楽しそうね?」
「人間ダーツだよ!」
「ダーツってお前それ……釘じゃねえか……」
「じゃあお姉ちゃんがこれを殺すまでに、一杯釘を刺せればココロの勝ちね?」
「よぉし!がんばるぞお!」
「冗談じゃねえ!マジかよ!」
ココロとやらが狙いを定めて釘を投げてくる。
しかもあの小柄な体形に似合わず、狙いは抜群だわ威力は壁に突きささるぐらいだわで……。

「あらあら、よそ見してて大丈夫?」
「うっわ!」
金槌が振りおろされて、すんでの所で避ける。

「ほらほら、顔に当たっちゃうよ?」
「なっ!」
避けたところに釘が飛んでくる。
身体を捻ってそれを避けるが、また金槌が……。

「これはキリねえな!仕方ねぇ!」
出来るだけ怪我はさせたくなかったが、そうも言ってられない。

「おい!お前ら!」
「なぁに?」
「なになに?」
あ、話は聞いてくれるみたいだ。

「こっから先は手加減しねぇ、怪我したくなかったら止めとけ」
「ふふふ、さっきまで避けるだけしか出来なかったのに?」
「怪我なんて怖くないよ?教授先生がなんでも治してくれるから!」
「それじゃあ全力で行くぞ?」
「なにを……がふっ!」
まず一人。
金槌女の顔面にオレの右手がめり込む。

「お姉ちゃん!?」
「とうっ!」
「へぎゃあ!」
ココロとかいうやつの鳩尾にジャンピング肘鉄をくらわせる。

「ふぅ、反撃してもいいんだったら、オレはお前らごとき敵じゃない」
ま、永遠に避けきれとかなら無理だっただろうけどな。

「サイカは大丈夫か?」
釘やら金槌やら危なげな物を回収しつつ、部屋の外を伺うも姿は見えない。
初め聞こえた弾丸の音はもうしないが、あいつはマジでやべえな。
カリンに応援に来てもらうしか……。

「ぎゃああああ!」
その時、耳を裂くような弾丸の音と共に、サイカの悲鳴が聞こえた。



「口の割にはノロマね」
「ぐっ!ちっきしょぉ……」
肩を撃たれた。
やばい、血が出てる……。
それにここどこだ?
逃げてる途中でよくわからん所に来たな。

「そろそろ終わりにしましょう?」
拳銃が私の頭を狙っている。

「負けねぇよ……」
「はぁ?」
「喧嘩に道具持ち込むような奴には、負けねえって言ってんだ……」
「はぁ?散々逃げ回ってなに言ってるの?」
「カリンはなぁ、マジで私と喧嘩する時は、竹刀も木刀も持たねえんだ!」
「カリン?誰それ?」
「素手でメッチャ強いんだ!いつも私はボコボコにされるよ!」
「今も変わらないじゃん」
「カリンが言ってた!本当に強いやつは!道具なんて使わない!その掌一つで!真剣を曲げてくるって!」
「なんの話?マンガかなにか?」
「でもな、私は……」
「なにが言いたいの?もういいや、死んでよ……」
私は姿勢を低くして相手の懐に入り込む。
飛び出した私の拳を相手は悠々と掴み、至近距離から拳銃を私の額に当てる。

「これで終わりね?」
「そうだな……」
「うぎっ!」
拳銃女が倒れる。
私はそれをそっと支えてあげて、ゆっくり床に寝させる。

「カリンみたいな本物には勝てねぇよ。でもな、喧嘩に道具を持ちこむような小物になら勝てる」
私は左手に持ったスタンガンをビリビリいわしながら笑う。

「私みたいな小物にならな!」
私が素手で喧嘩するわけねぇだろ?
か弱い乙女だぜ?



「おい!大丈夫か?」
「あぁ、なんかメッチャ痛かったけど、かすっただけだったみたいだわ」
「血が出てんぞ?」
「と思ったけどもう止まってんだよ」
「それでも大事だろ?もう帰るぞ?」
「まぁ待てよ……面白いもん見つけたぞ?」
「あ?なに?」
「さっきから聞こえねぇか?」
「え?」
「この階段の下、地下からなんか呻き声みたいのがな……」
「おいおい、これ以上ヤバいのはごめんだぞ?」
「なんかテンション上がっちまってな、もう止められそうにねぇわ」
「はぁ、しゃあねぇな。付き合ってやるよ!」
「なんだよ、お前も結構楽しそうじゃねえか!」
私達はそのまま地下に向かい、明りの無い廊下を歩く。

「真っ暗だな」
「携帯のライトでギリ道がわかるぐらいか……」
「今襲われたら防ぎきれねぇぞ?」
「大丈夫だよ、あの三人はもう襲ってこれねぇし」
「他に仲間がいるかもだろ?しかも、この呻き声の主も……」
「なんかわかんねぇけどよ、これ、重要ななにかの気がするんだ」
「女の感ってやつか?」
「そんなとこだな」
話してたら行き止まりになった。
廊下の一番先、霊安室と書かれたその部屋から声がする。

「今思ったんだが……」
「あぁ、オレも思ったよ……これさ、ゆうれ……」
「もう言うな。それ以上言うと私が怖くてちびるぞ?」
「もう引き返せねぇよな?行くぞ?」
「お、おう……」
ヒカリがドアを開くと、声が大きくなる。
やっぱりこの部屋にいるんだ。

「うぅぅぅぅ……」
「だ!誰だ!どこにいる!?」
ヒカリがライトで部屋を照らしながら叫ぶ。

「うぅぅぅ、うぎゃああああ!」
「わああああ!」
「ごめんなしゃい!ごめんなしゃい!」
やめてぇええ!
怖いのやだぁぁぁ!

「はらへったあああああ!」
「は?」
「な、なんだ?」
急にジャンプの主人公みたいなこと言いだした。

「え?君たち、誰?」
「いや、お前こそ誰だ?」
「教授の仲間じゃないのか?」
「ん?もしかして君らも教授の仲間じゃないの?」
「君らもってことは!お前もか!?」
「ほらな?私の感は当たるんだ」
さっきちょっと漏らしたのを隠すように、内股で格好つけといた。



「ここがフリースペース、主に私達が遊ぶのにつかわれるのはここです」
「人がいませんね?なぜですか?」
「人が少ない施設ですし」
「そうですか」
施設の中を案内してもらっているのだが、極端に人を見ない。
子どもたちはおろか、職員と思わしき人物さえもまだ一人もあっていない。

「職員の方はいないのですか?」
「今は常駐している人間が、昼間は二人、夜は一人です」
「いやに少ないですね」
「厄介ものにさく人員はいないということでしょう」
「へぇ……」
興味なさ気に答える私を睨みつけるナナ。

「ナ、ナナ姉ちゃん……」
「ケント、あっち行ってなさい」
「その人、誰?」
「いいからあっち行ってなさい」
「う、うん……」
ナナより年下と思わしき少年は、叱られたかのようにしょんぼりして去っていく。

「冷たいですねぇ」
「うるさい……」
「ずいぶん慕われているみたいですね」
「……嫌味ですか?」
「なぜ?」
「私の過去を知っているから」
「過去って?親を殺したことですか?」
「ぐっ!」
胸元を掴まれました。
これだから短絡的な人間は嫌いです。

「まぁ、もう案内はいいですよ。飽きましたし」
「じゃあ帰ってよ!あんたみたいな大人が一番嫌い!やさしい顔で近づいて、めんどくさくなったらすぐ諦めて帰るんでしょ!?」
「だれが帰ると言いました?」
「はぁ?職員に会いたいの?どうせすぐに駆けつけるわよ。私がこんなことしてたらね」
その言葉の通りすぐに大人が二人駆けつける。

「おい!お前!なにしてる!」
「その手を放しなさい!」
この場合叱るべきは彼女では無く、勝手に入っている私でしょうに。

「あなたは……どちら様ですか?」
「ナナの知り合いか?」
「彼女の昔のカウンセラーですよ」
「あぁ、そうでしたか……」
「どうやって中に入ったんですか?」
「彼女に開けてもらいましたよ?」
「な!?おい!ナナ!お前また勝手に施設の外に出てたのか!それに鍵まで!?どやって!」
乱暴に髪を掴まれると、ナナは無表情で謝罪する。

「ごめんなさい……」
「まったく、おい!お客の前だ、それぐらいにしとけ」
お客の前じゃなかったら、どれくらいまでするんでしょうね。

「じゃあ、あなた達二人は、定刻になったので帰っていいですよ?」
「え?」
「あれ?」
二人の職員は疑問を持ちながらも去っていく。

「じゃあこれからショウタイムと参りましょうか」
「あいつらになにをしたの?」
「帰ってよいと言っただけですよ?」
「部外者のあなたに言われて、なんであの二人が帰るの?」
「難しいことは置いといて、私とおしゃべりしましょうよ」
「はぁ?」
「あなたは私にはなんでも話してくれますからね?私に好意を抱いているあなたなら……」
私の言葉が彼女を縛る。

「え、ええ……そうですね……」
「まず、あなたがここに入れられた原因はなんでしたっけ?」
「お、親が死んだからです」
「その答えは適切じゃないですよね?親がいないだけなら普通の施設に行くはずです。ここはなんですか?どのような人間が来る場所ですか?」
「罪を犯した子や、頭がおかしくなった子が来る施設です……」
好意を抱いていると言われて、少し表情が明るくなったが、それでもやはり言いづらいようですね。

「あなたは自分を貶められるのが大好きですよね?自分を貶めてくれる私が大好きなんですよね?」
「え?……そう、そうです!はい!」
「あなたはどういう人間ですか?馬鹿みたいに笑いながら話してみてください」
「はい!私は実の父親に犯されてました!えへへ!」
「ほう?どんな風に?」
「寝てる間にセックスされたり、食べ物に精子を混ぜられたりです!」
「へぇ、淫乱なあなたなら、さぞ嬉しかったでしょう?」
「は……はい、うれし……かったです……」
「なにがぁ?」
「父親に、犯されるのが……嬉しかったです……」
心にも無いことを笑顔で言わされる。
それが嬉しくて堪らない自分がいる。
混乱して、正常な思考が死んでますね。

「でえ?その父親をどうしたんですか?」
「殺しました!母親と一緒に!」
「そうですか、それで?」
「その後生活に困って……」
「それでそれで?」
「母親に仕事を任されました……」
「どんな仕事ですか?」
「男の人に……身体を売る仕事です……」
「あなたにピッタリですね」
「ありがとうございます!」
あぁ、美しい。
壊れゆく人間はいつ見ても美しい。

「で、そんな母親をあなたは?」
「殺しました……」
「どうやって?」
「包丁で……胸を刺しました……」
「もっと笑いながら言って下さいよ。気を使ってしまいます」
「そうですよね?ははっ!胸刺して殺しちゃいました!きゃはは!」
涙を流しながら笑うナナ。

「母親と父親をあなたはどう思いますか?」
「最低だけど……大好きでした……」
「大好きなのに殺したんですよね?もう会えないんですよね?話すことも、甘えることも、ましてや謝ることも出来ないんですよね!?」
「はい……そうです……」
「誰のせいですか?誰が殺しましたか?あなたの大切な人を」
「私です……ナナが殺しました……」
「よく出来ました」
笑っている。
にこやかに、震える身体を押さえながら、笑っている。

「話を変えましょう、この施設での暮らしはどうですか?」
「悪くはありません、職員は気味悪がって近づきませんが、それゆえに自由ですし」
「他の子たちとの折り合いは?」
「私が一番年上ということもあって、なぜか慕われています」
「へぇ、みんな人殺しですか?」
「そんな言い方……」
「大好きな私に口答えですかぁ?」
「すいません……」
「質問に答えて下さい。他のみんなも人殺しですか?」
「全員では、ありません……」
「誰と誰が、どんなことをしたんですか?」
「……答えないといけませんか?」
「答えてください、それともみんな集めて、聞いてまわりますか?」
「いえ、あの……ケントは、さっきのあの子は、実の姉を殺しています……」
「へぇ、あんなに小さいのにどうやって?」
「喧嘩して、でも勝てなくて、寝ている間に、頭の上からテレビを落としたと聞きました……」
「それは酷い。最悪ですね」
「で、でも!今は反省してるんです!あの子!わかって無かっただけで!お姉ちゃんが苦しむ姿を今でも夢に見るって!ずっと泣いてて!」
「泣けばお姉ちゃんは痛くなくなるんですかぁ?反省すればお姉ちゃんは生き返るんですかぁ?」
「ち、違いますけど……」
初めからほとんどなかった目の輝きが、更に陰っていく。

「他の子はどうなんです?あと何人ぐらいいるんですかねぇ?」
「女の子が三人います……」
「その子達はなにをしたんですかぁ?」
「一人は……家を燃やしました……」
「自分の家を?」
「いえ、嫌いな子の家だったらしいです……」
「放火魔ですかぁ」
「は……い……」
「それで親に縁を切られてここに?」
「そうです……」
「無責任な親が育てるからそんな子に育ったのに、可哀そうな子ですねぇ?まぁ、放火魔に同情しても仕方ないですよね?」
「そうですね……」
びくりとも動かなくなってきた。

「あとの子は?」
「ドラッグを……していたみたいです……」
「え?ここってナナが一番年上ですよね?」
「そうです」
「ナナより年下の子が?ドラッグを?」
「はい……」
ナナはまだランドセルが似合う年頃だ。
それより下ということはかなり幼い。

「親に……勧められたとか……」
「はぁ、親子揃って人でなしですか」
「そうですね……」
「で、親は刑務所、子はここにってわけですか?」
「はい、発見された時、命があっただけでも救いものだったとかで……」
「あぁ、人間辞めたやつの話はもういいですよ?」
「はい……」
震えるこの声が実に心地よい。

「最後の一人は?」
「いじめっ子だったらしいです……」
「あらあら、ここに来て普通ですねぇ?」
「クラスの子を、五人自殺に追いやりました……」
「うわぁ、それは引きますねぇ」
「今では普通の子です……ちゃんと反省してて……」
「人を五人も殺しておいて、普通なわけないでしょ?」
「は、はい……」
いやはや、この施設は本当に面白い。
そんな人間を集めて、これで独房でないのが不思議なぐらいです。

「あなたは今幸せですか?」
「え?」
「同じような傷を持った子達に囲まれて、お姉ちゃんと呼ばれて、満更でも無いんでしょ?」
「は、はい……。そうですね、幸せだとは言い切れませんが、あの子達といると、もう少しここで生きていてもいいんじゃないかって思えます……」
「そうですか」
私は満面の笑みでナナの頭を撫でる。
初めはビクッとしたが、徐々に恥ずかしそうに頬を染めながら身をゆだねる。

「人殺しが幸せになるなんておかしいですよ?」
「……」
その表情が固まる。

「あなたは自分が人の人生を奪い取ったことを忘れたんですか?」
「……ぁ」
「あなたは幸せになるべきではありません」
「やめて……」
「死んだ人は生き返りませんよ?あなたがどんなに反省しても、どんなに謝罪しても」
「やめてえええ!」
「不幸になりなさい!あなたが殺した人たちの恨みの分まで!不幸に!」
「やめてよおおおお!」
「大丈夫……」
そっと抱きしめる。

「私がついてます。私が、不幸なあなたを愛してあげますよ。だから、存分に不幸になりなさい?」
「は……はい……」
さぁ、自分の手でやるんですよ?
あなたが作り上げた小さな幸福を、その手で壊しなさい……。



「ってことで連れてきたんだが……」
「なんですか?この汚い物体は……」
「いや、一応人類なんですが……」
「誰これ?知らないおじさんを家に入れてはいけないよ?」
「いや、おじさんほど危険な人間をいれておいて、今さらですけどね」
妨害の果てに手に入れたサヤカのぱんつを、クンカクンカしていたおじさんに、みんなの冷たい目が突き刺さる。

「お、おじさん!?」
「え?はぁ、そうです、私がおじさんです」
急に知らないおじさんにおじさん呼ばわりされた。
いや、おじさんはおじさんなんだけども。
うん、わかんなくなってきた。

「俺だよ!ショウタだよ!」
「ショウタ?うぅん、知らないねぇ」
「はぁ!?なに言ってんだよ!幼馴染だろ!?」
詐欺か……宗教か……。

「ちょっと待って下さい!これって!」
「多分そうね。ショウタさん、詳しく話を聞かせて下さい」
サヤカとイチゴがショウタとやらに詰め寄る。

「え?いや、こいつは、おじさんは俺の幼馴染なんだよ」
「えぇ?なんのこと?幼馴染?」
「それで、なんか教授とか言うやつに、意味わかんないこと言われて、急に襲われて気がついたら監禁されてて……」
「それで今まであそこにいたんですか……」
「え?なに?どゆこと?」
「つまり、先生が助けに行ったのはこの人ですよ」
「え?なんで知らない人を助けに行くの?ヒーローだったの?」
「いや、助けに行った人の記憶を奪われてるんでしょ?」
「あ、そうだった……」
「記憶を?なんだ?おじさん、マジで俺のことがわかんねぇのか?」
「あぁ、そうみたい……」
「うぅん、本当のことのようだな」
「いやに簡単に信じますね」
「あぁ、俺はおじさんの嘘なら見抜けるからな!」
「え?……それって」
「教授と同じだ……」
「見えたわね、じいやの力を取り戻す光が……」
そうして一度全員集合して、作戦を練ることになったのだった。



「ナナ姉ちゃん、用ってなに?」
「ごめんね、ケント。ちょっとやって欲しいことがあるの」
「あのおじさんは?」
「もう帰ったわ……」
普通にここにいますけどね。
彼女たちに私は認識できません。

「なにをやればいいの?」
「ケント……ケントは私の言うことならなんでも上手に出来るわよね?」
「うん!もちろんだよ!ナナ姉ちゃんの為ならなんでもする!」
ケント、彼は実の姉を殺してしまった過去に目を塞ぎ、ナナを実の姉だと思っているらしい。

「じゃあ、ちょっとナゴミを捕まえて欲しいの」
「ナゴミを?」
ナゴミ、彼女は幼いながらも中毒者になってしまった幼女。
今では薬を強制的に絶たされた環境にいる為、中毒衝動が無ければ普通の性格らしい。
ケントとは同い年で仲が良く、いつも二人で遊んでいる。

「ナゴミを捕まえて、裸にしてそこに貼りつけるの」
「え?……どういうこと?」
ナナが指さしたそこは、窓の外。
庭にある大きな木だ。

「言った通りよ?出来ないの?」
「な、なんでそんなことするの?ナゴミがなんかしたの?」
「別に?楽しそうじゃない?」
「あ、あのさ……それより僕とトランプしよう?その方が……」
「お姉ちゃんの言うこと、聞けないの?」
「ぁぅ……」
ケントは姉を殺した負い目で、姉の代わりであるナナの言うことに逆らえない。
昔ナナがイラついて死ねと言った時、自殺未遂を起こしたほどだ。

「でも……そんな……ナゴミは……」
「大丈夫、ちょっと遊ぶだけ。ね?」
「ナゴミ……は……」
顔が真っ青ですね。
ケントはナゴミが好き。
ナナはそう言っていましたが、本当のようです。

「あれ?ナナちゃん、ケント、なにしてるの?」
「ナゴミ……」
「ほら、行ってきなさい?お姉ちゃんが帰ってくるまでにね?」
「あぁ……ぁ……」
「ケント?ナナちゃん、ケントなんか変だよ?」
「そう?私お手洗いに行ってくるわね?」
そう言ってその場から去るナナ。
情緒不安定になっているケントを気遣うナゴミ。

「ケント?本当に大丈夫?なんかあった?誰か呼ぶ?それとも部屋で休む?」
「ナゴミ……いや、ダメだよ……僕、ナゴミにそんな……」
「ケント?」
自分の意志と姉の命令、どちらを優先すべきかもわからなくなっているのですか。
私が手を下すまでもなく、こんなものは簡単に壊せますね。

「ケント、なにがあったか知らないけど、私がついてるから」
「ナゴミ?」
「私……ケントの為だったらなんでもするよ?だから、私を頼ってもいいんだよ?」
ナゴミもまたケントを愛している。
親からまともな愛情も教育も受けてこなかった彼女だが、ここでケントと出会って変わったという。
いつかケントと二人で暮らす、そんな未来を夢見て、薬の魔力に抵抗するようになったらしい。

「ホントに……?」
「本当だよ?ケントの為ならなんでもするよ?」
「じゃあ……」
ケントは笑った。
卑しく、震えるように笑った。


「ケント、ちゃんと準備出来たのね?」
「うん!ナナ姉ちゃん!僕、言う通りに出来たよ!?」
「ケント!?解いて!恥ずかしいよ!」
ナゴミは裸に剥かれ、庭の木に貼りつけにされている。
お腹をロープで巻き付けられただけで、両手足は自由だが、結び目は木の後ろなので自分では解けそうもない。

「ナゴミ、五月蠅いわよ?」
「ナナちゃん!?ナナちゃんがケントに言ったの!?なんで!?」
「ほらケント、これでお姉ちゃんと遊びましょう?」
「うん!」
ケントの目は完全に死んでいる。
もう考えることを止めたのだ。
因みに私はケントにもナゴミにも力は使っていない。
あくまでこの子達を壊すのは、ナナ自信で無くてはならないからだ。

「これでどうすればいいの?」
「あれが的よ?」
ナナがケントに渡したのはダーツの矢。
その先は綺麗に尖った鉄製なので、刺されば無事では済まないだろう。

「あれを……狙えばいいの?」
「そう、あれに上手に当てれたら、お姉ちゃん嬉しいな」
「……僕頑張る」
ケントはいくつかの矢を握りしめ、大好きなはずのナゴミを狙う。
ナゴミはその光景を、信じられないといった顔で見つめている。
しかしすぐに現状に気付き慌て始める。

「ケント!止めて!そんなの刺さったら怪我しちゃうよ!」
「お姉ちゃん、これどうやって投げるの?」
「ケント!ねえってば!こんな恰好恥ずかしいよ!」
「そっか、こうやって狙うんだね?」
ナゴミの声は最早ケントには届かない。
ナゴミはまだ幼い身体を外気に晒し、喰い込む縄に耐えながらも逃げようともがいている。

「じゃあいくね?えい!」
「ひぃぃ!」
ケントが投げた矢は、ナゴミの顔のすぐ横に刺さる。

「外れちゃった……ごめんなさい!ごめんなさいナナ姉ちゃん!」
「いいのよ?他にもまだあるんだから、どんどん投げていいわよ?」
「うん!えい!」
「いぎいい!」
今度は左の太ももに刺さった。
ナゴミは苦痛に身をよじりながら涙を流す。

「ケントおおお!止めてえええ!」
「えい!」
「あがあああ!いだい!いだいよおおお!」
「えい!えい!」
「あああああがあああがががががああ!」
ケントはコツを掴んだのか、次々とナゴミの身体に矢を刺していく。
ナゴミの身体のあちこちに矢が刺さっていき、その度にケントはナナに褒めて欲しそうに笑いかける。

「ケント、今度はこれを使って?」
「これを投げるの?」
「違うわよ、これはお尻に入れるの」
「これを?」
ケントは渡された物を素直に受け取り、ナゴミに近づく。
ナゴミはすでに意気消沈で、近づいたケントに気付きもしない。

「こう?」
「ふぎっ!?」
ケントは無遠慮にそれをナゴミのお尻の穴に突き入れる。
矢が大量に刺さったナゴミの身体が少し動き、いくつかが落ちて行く。
矢が抜けたそこからは血が滲み出て、綺麗だった裸体が血で染まっていく。

「後は……わかるでしょ?」
「うん!こうでしょ!?」
ケントは一緒に渡されたライターで導火線に火を付ける。

「なに!?なにをしてるの!?」
「大丈夫よ?ただ爆竹に火を付けただけだから……」
ナナがナゴミに笑いかける。

「爆竹……?」
それはナゴミのお尻の穴に刺さっている物に他ならない。

「だっ!ダメえええ!消してえええ!」
ナゴミは不様に腰を振ってそれを落とそうとするが、時すでに遅い。

「ひぎ!」
短い悲鳴と共に、パンっという小さな爆発音がする。

「ああああああああああ!」
ナゴミは直後、急激にお尻を振りながら痛み始める。

「ナナ姉ちゃん、僕うまく出来た?」
「うん」
ナナの笑顔を見て嬉しそうにするケント。

「ねえケント、あれなに?」
「あれって?」
ナナは楽しそうにナゴミを指さす。

「あれよ、あれ」
「なにって……」
「今そこでのた打ち回ってるのって、ケントの大好きなナゴミでしょ?」
「ナゴ……ミ……」
「ケントが裸にして、木に縛り付けて、ダーツの的にして、矢で血まみれにして、お尻に爆竹突っ込んで爆発させたあれ……ナゴミだよね?」
「あぁ……あ、ああ、あああああああ!」
「ケントは大好きなナゴミを滅茶苦茶にしたんだよ?」
「あっががあああああ!」
ケントは急に頭を抱えて地面に打ち付け始める。
大切な人をまた傷つけてしまったことで、トラウマが再発したようだ。

「ねえ、ケント?お姉ちゃんの言うこと聞ける?」
「ナゴミ、ナゴミが……」
「ケント?お姉ちゃんのいうこと聞けないの?」
「お姉ちゃん……ナゴミ……お姉ちゃん……ナゴ……おね……」
「ケントはね?これからナゴミを連れてここから出るの」
「あぁぁ……」
「そしてそこら辺に歩いてるおじさんを捕まえて、ナゴミを犯して貰うのよ?」
「おかす……ナゴミ……」
「その間ケントはナゴミに指で浣腸でもしてあげたらいいわ」
「浣腸……」
「ナゴミきっと喜ぶわよ?大好きな人に浣腸されながら、好きでも無い人に初めてを奪われるなんて、最高でしょ?」
「ナゴミ……好き……僕……ナゴミが……」
「大丈夫、ナゴミがどうしても嫌だって言ったら、これを使えばいい」
「これ……」
それは錠剤だった。
なんの変哲もない、ただのビタミン剤。

「これをやるって言ったら、ナゴミはなんでもやるわよ?試してみたら?」
「……ナゴミ?」
ケントはフラフラとナゴミに近づく。

「ナゴミ……」
「なんで!なんでこんなことするの!?」
「ナゴミ……これ……」
「なによ!……え?これって……」
「これ……あげるから……その……」
「これ!これ薬なの!?ドラッグ!?ねえ!頂戴!それ頂戴!」
「うわっ!」
ナゴミはさっきまでとは違う目つきで手を伸ばす。
縛られていなかったら、ケントに襲いかかっていただろう。

「これあげるから、僕と一緒に来て欲しい……」
「やる!なんでもやる!」
「知らないおじさんと……その……セックスして欲しいんだ……」
「いいよ!なんでもするから!早くそれ頂戴!」
「え?……いいの?」
「いいから!早く薬!それで気持ち良くなるの!」
「知らない人とだよ?僕じゃないんだよ?」
「いいから早く!飲ませて!」
「あははっ……あはっ……」
それから二人を解放し、施設の外に出してやった。
また人を苦痛から解放してやった。
いいことをすると気持ちがいいものだ。


「ナナ、今どんな気分ですか?」
「どんなって?」
「大切な人を自らで壊す気分はどうですか?本心を言って下さい」
「最悪です、吐きそう」
嬉しそうに笑いながら言い放つナナ。
笑顔は偽物だが、その言葉は本物なのだろう。
しかしナナは私に貶められると嬉しいのだ。
可愛い私のナナ。
もっと……壊れて下さい。



「ナナ?なにかあったの?騒がしいけど……」
「あぁ、ワカバ。別になにもないわよ?」
「そう?ってか外に出るとまたあいつらに怒られるよ?」
「うん、すぐそっち行くね?」
窓から話しかけてきたのはワカバ。
昔イジメで同級生を五人も自殺させた女だ。
今では更生したとかで、ナナに憧れて真似ばかりしているらしい。


「ホント、いつもナナってどうやって外に出てるの?」
「内緒よ」
施設の玄関は鍵があり、内側からも開けられない。
庭に出るのにも鍵がいるのだ。

初めに会った時庭にいた所を見ると、ナナはいつもそれを突破して外を散歩していたようだ。

「教えてよー!てか連れてってよ!」
「ダメよ……」
「ケチー!」
「それより、話しがあるんだけど……」
「話し?なに?」
「ワカバの部屋に行ってもいい?」
「いいけど?」
ナナの異様な雰囲気に、怪訝な顔をしながらも部屋に先導するワカバ。
あぁ、おもしろくなりそうです。


「入っていいよ?」
「おじゃまします」
「で?なに?話って」
「ワカバの友達に会ったの」
「……は?」
「名前は聞いてないけど、ワカバの友達だって言ってた」
「なに……それ……」
「門の所で会ったの」
「……なんか言ってた?」
「ワカバがまだ生きてるのが、許せないってさ……」
「そう……」
ワカバは心当たりがありすぎて、誰だか特定できないだろう。
だが今回のこれは嘘である。
ナナにそう言わせているだけだ。

「でもね?ワカバが反省してるってわかったら、みんな許そうって思ってるって」
「ほんと?」
ワカバは泣きそうな顔を上げ、ナナに詰め寄る。

「反省って、どうやったらいい?私なんでもする!あの子達に!償わなきゃって思ってた!」
ワカバは本当に反省しているのだろう。
この施設のカリキュラムを受け、幾人ものカウンセラーにかかった結果更生はしたが、皮肉にも自分の罪の重さに気付き、それを背負ってしまったのだ。

「言うこと聞いてビデオに撮って送ってくれたらいいって」
「言うこと?なに?なにしたらいいの?」
「これ、手紙……」
ナナは手紙を渡した。
それ自体は私が書いたものだ。

「なにこれ……こんなの出来るわけない……」
「ワカバの惨めな姿を見たら、死んだ人も少しは救われるだろうってさ」
「そんな……」
ワカバの顔が青ざめていく。

「今日の五時に取りに来るって。それまでに出来ないなら、やっぱり反省してないってことだって」
「五時って!あと一時間しかないじゃない!」
「これ、ビデオ。一緒に渡された」
「嘘……」
「早くしないと間に合わないよ?」
「い……いやだ……」
「反省してないの?」
「反省はしてるけど!でも!こんなのおかしい!」
「あなたがしてきたことは、おかしくなかったの?」
「ぁ……」
「理不尽なことをして来たから、こんなことになるんでしょ?」
「でも……」
「人を五人も殺しておいて、今更自分は綺麗でいられると思ってたの?」
「ナ……ナ?」
ナナがニコッと笑ってビデオを渡すと、震える手でそれを受け取った。

「時間になったら、私がそのビデオを渡してあげる。だからそれまでに撮っててね?」
「な……」
「あ、あとこれ、いると思ったから持ってきてあげたわよ?」
ナナは金槌と釘を床に置くと、部屋を後にした。


「一人で出来るでしょうか?」
「出来ます、ワカバは強い子だから」
「信頼してるんですね」
「当たり前ですよ、あの子は私を信用してくれる。だから私もあの子を信頼する」
「そんな子をあなたは騙したんですけどね」
「そう……ですね……」
笑いに力が無くなっている。
いい感じに頭の中がグチャグチャになっているようだ。


「最後の子はこの部屋ですか?」
「はい」
「確か放火魔ですっけ?」
「そう……です……」
部屋の前で立ち止まり、ナナは深呼吸する。

「わかってますね?徹底的に……ですよ?」
「はい……」
覚悟を決めたようにナナは頷き、勢いよく扉を開く。

「ノゾミ!」
「うひゃっ!?ナナちゃん!?」
急な来訪に驚くノゾミ。

「あんたさっきトイレ使ったわよね?」
「え?トイレ?ええっとぉ……朝は使ったかも……」
「臭いのよ」
「え?臭い?なに?」
ナナの剣幕に飲まれ、混乱しているようだ。

「あんたが使った後のトイレは臭いって言ってるの」
「そ、そんな……朝使っただけだよ……?」
「うっさい!一生臭い糞出ないようにしてやる!」
「な!ちょっと!離してよ!」
ナナはノゾミを捕まえ、パンツを脱がせた。
色白の尻がスカートの下から顔を覗かせる。

バタつくノゾミを押し付けて、ナナは懐から包丁を取り出す。

「動くな!」
「ひぃ!ちょっと!危ないよ!」
ナナは包丁をノゾミの顔の横に突きたてる。

「刺されたくなかったら大人しくしてて」
「そんな……嘘でしょ?」
「知らないわけないでしょ?私はこれで一回人を殺してるのよ?」
「ナナちゃん?……誰かにやらされてるの?」
「……なに言ってるの?」
「ナナちゃんがこんなことするわけない。ナナちゃんは強い子だから……」
「あんたになにがわかるのよ。ほら!ケツ出せよ!」
「いたっ!」
ノゾミの顔を床に押さえつけて、腰を上げさせる。
そのまま尻の肉を開くと、肛門と泌部が露出した。

「ちょっと!なにしてるの!?」
「動くなって言ってるでしょ?痛い目にあいたいの?」
「ナナちゃん……怒るよ?」
「だからなに?」
「ナナちゃんも確かに人を殺したかもしれない、でもそれは私も一緒。ねぇ、私の恨みを買うとどうなるか知ってる?」
この子はすでに壊れてたのか。

「放火でもされるの?でも私の部屋を燃やしたら、あんたも死ぬわよ?」
「別に放火だけが人を殺す方法じゃないでしょ?……ほら、こんな風に」
「なっ!」
床に刺さっていた包丁を取って、ノゾミがナナに切りかかる。

「ナナちゃんも味わってみたら?包丁で刺されたらどれだけ痛いか」
「ノゾミ……あんた……」
思っていたのとは違う展開になりましたね。
でもこれじゃあ埒が明かない。

「ノゾミ、あなたは急に力が入らなくなりますよ」
「あ……れ……?」
「なに?どうしたの?」
「急に……力が……」
「ふ、ふふっ。これで抵抗できないわね」
「なにをしたの……?」
「さあ?知らないわ?」
今はナナでも私を認識できませんからね。

「じゃあ続きね?ほら、お尻突き出して……ふふっ」
「変態……」
「臭いケツに蓋をしましょうね?」
「ちょっと!なに入れる気!?」
「なにも入れないわよ?それとも入れて欲しかった?」
「そんなわけ!いった!なに!?」
「ちょっと針が刺さっただけでしょ?ほらっ!」
「いぎいい!いだいいい!」
ナナは裁縫用の針をノゾミの肛門に刺していく。

「なにしてるの!?ちょっと!やめて!」
「なにって、蓋をするって言ってるでしょ?穴を塞いじゃうのよ」
「いだいいい!いだいいだい!」
ノゾミの肛門は血だらけになりながら、針と糸で裁縫されていく。

「ほら、もうすぐ完成」
「痛いよぉ……もうやめてぇ……」
「最後にキュッと!」
「あああああああ!」
ナナは無理やり糸を引っ張り、ノゾミの肛門を閉じる。

「これで括っておけば、もう臭い糞を出さずに済むわね?」
「ナナちゃん……なんでこんなこと……」
「あんただって殺そうとしたでしょ?私のこと」
「それは……そうだけど……」
「それぐらいの関係じゃない。じゃあ遊びで壊しても支障ないでしょ?」
「ち……違う……」
「違う?なにが?」
「私……ナナちゃんが好きだった……」
「今更なによ?」
「私と一緒で、人を殺したのに、それでも強くあろうとしてた……」
「で?だからなに?」
「私はナナちゃんがいたから生きていられたの!なのに!」
「そう……じゃあ、もっと言って?」
「……は?」
「私の好きな所、もっと言ってみて?」
そう言いながらナナは、私が置いた水筒を手にする。

「好きな所?……優しい」
「それだけ?」
「格好いい……」
「次は?」
「たまに……褒めてくれる……」
「次……」
「えっと……」
「間が開いたわね、罰よ」
「熱い!な!なにするの!?」
「罰よ?マンコに熱湯をかけたの。臭いマンコを消毒出来て、一石二鳥でしょ?」
「そんな!なに考えてるの!?」
「ほら、次……。また罰を受けたいの?」
「あ、えっと、いい匂いがする……」
「咄嗟に思いついたのがそれ?気持ち悪い、変態はあなたじゃない」
「クッ!」
「次よ……」
「こ、声が好き!」
「次……」
「あぁ……あっつ!」
「遅いわ。仕方ないわね、ヒントを上げる」
そう言ってナナはノゾミの顔の方へ行くと、スカートを捲る。

「ほら、言ってみて?」
「え?なにを?」
「好きな所……」
「えっと……足が長い……」
ノゾミは食い入るようにナナのパンツを見ている。
ノゾミがナナを性の対象にしているというナナの情報に、誤りは無かったようだ。

「パンツが可愛い……」
「そう?」
「はぁ、はぁ……凄くエッチ……」
「それで?」
どんどん腰をかがめてノゾミの顔に近づけていく。

「ちょっと濡れてる……」
「それって好きな所?まぁ、いいか」
「い、いい匂い!ナナちゃんのパンツ!いい匂いがする!」
「さっき言ったでしょ?しょうがない子ね……」
「舐めたい……ナナちゃんの大切な所……舐めたい……」
さっきあんな目にあったのに、もう忘れているのか。
やはりすでに壊れていますね。

「だぁめ。放火魔さんには舐めさせられません」
「な!お願い!ちょっとだけ!はぁ、はぁ……レロ!」
「こら、勝手に舐めちゃダメでしょ?罪を償えば考えてあげる」
「罪を……償う?」
「これでチャラよ……」
「え?」
ナナは持っていたライターでノゾミの髪に火を着ける。

「なっ!?あっつ!熱い!ちょっと!」
「ほらほら、頭焼けちゃうわよ?」
「ひぃぃぃ!」
必死に頭を振るが、力が入らないノゾミは火を消すことが出来ないようだ。

「助けてあげる」
「お願い!消して!お願いいい!」
ナナはノゾミの足を持って、部屋のすぐ前にあるトイレへ引きずっていく。

「あがいいいい!があああ!」
すでに髪の殆どが燃えている。

「ほら、臭いあんたにお似合いな場所よ……」
「ぐへ!?ううう!」
ナナはノゾミの首を掴んで便器に顔を押し入れる。

「ぶっ!?ぶぶぶぶ!ぶばあああ!」
ノゾミはすぐに頭を上げるも、まだ力が入らないようですぐにトイレに顔が落ちる。

「ぶぶぶ!ぷあはあ!はぁ、はぁ……ぶぶっ!」
「キャハハハッ!なにそれ!面白い!」
ナナは腹を抱えて笑っている。

「ほら、あんたの臭いマンコ、私みたいにいい匂いにしてあげるわよ?」
「はぁはぁ……なに?うぐうう!」
ナナはトイレに備え付けてあった芳香剤を、無理やりマンコに押し入れたのだ。

「じゃあね、あんたはそこで不様に跳ねてなさい?運よく外に落ちれたら命は助かるかもね?」
「ぶぶっ!」
少し時間が経てば力が戻るようにセットして、その場を立ち去る。



「あの子、ナナが好きだったんでしょう?」
「だからなんですか?」
「よかったんですか?」
「あなたが……言ったから……」
「そうですか。じゃあ、ワカバの所に戻りましょう」
「はい……」
もうすぐフィナーレですね。


「すでに終わっているみたいですね」
「はい」
扉の前に来たが、これだけ静かなら、ことは終わっているだろう。
部屋の中に入ると、ワカバがカメラの前で全裸になって倒れていた。

「確認してみましょうか」
ビデオを再生する。

「み、みんな……久しぶり……」
そこからは長々と謝罪と言い訳の時間。
面白くもない。

「だから……今日はみんなの気が済むなら……私……」
そう言いながら服を脱いでいく。

「今から、自分で処女膜を破ります……」
そう言ってから五分ほど躊躇っていたが、覚悟を決めたようで、そばにあった金槌の柄をマンコに突っ込んだ。

「うんっ!はぁ……いっ!いたっ!」
そう言ってすぐに、血が流れてくる。

「へ、へへっ……処女膜、破れました……」
引きつった笑いのまま、カメラに向かってピースする。

「人殺しの処女膜なんて……ゴミみたいなもの……捨てて当然だよね?」
手紙に書かれていたセリフを読み上げる。
嘘っぽいが、笑顔は忘れない。

「じゃあ……遂に私の処刑を始めます……」
ワカバは金槌を引き抜き、釘を取りだす。
そのまま部屋の壁に引っ付き、腰を突きだす。

「い……いくよ?」
釘の先端は、ワカバのクリトリスを狙っている。
このまま金槌で打ちつければ、壁とクリトリスが貫かれるだろう。

「はぁはぁはぁはぁ……」
息が荒い、そのまままた時間だけが過ぎていく。
後悔の念は強くとも、なんの暗示もしていないのだ。
ここまでの自傷行為、生半可な精神で出来るものじゃない。

「みんなの為に……えい!」
カンっ!という音が響き、全てが一瞬止まる。

「……う、うぎゃああああああ!」
ワカバは信じられないぐらいに頭を振って、獣の様な声で悲鳴を上げる。
防音のこの部屋でなければ施設中、いや、外にも響いていただろう。
ワカバのクリトリスは釘で貫かれ、壁に張り付いている。

「はぁはぁ……そ、それでは……これを見たみんなの心が……少しでも晴れるのを願って……」
その後黙り、気張り始めるワカバ。
しばらくした後、気の抜けた音が鳴る。

「プププッ……」
顔を赤くして涙を流しながらもまだ気張り続ける。

「プププッ……プププッ……プスゥー」
釘を刺したクリトリスを動かさないように、何度もおならを続ける。

「ど、どうですか?ワカバの一本締め、気に入って貰えましたか?」
これが一本締めですか?
まぁ、暗示無しであそこまでやれたら上出来ですね。
私は飽きてビデオを止める。

「床に倒れていたってことは、このあと釘を抜いたんでしょうかね?」
「さぁ……」
「まぁどっちでもいいです。これ、ネットにでも流しましょうか」
「そう……ですね……」
「これで終わりですね。さあナナ、最後に質問をしてもいいですか?」
「はい?」
「あなたはあの四人のことをどう思っていますか?」
四人とはもちろんナナが壊した子達のことだ。

「大切な……家族です……」
「そうですか、じゃあなんで壊したんですか?」
「え?……なんで?」
「あなたがやったんですよ?」
「そんな……私……言われただけで……」
「やったのはあなただ」
「い……や……」
「あなたはただ自分がやりたかったから、そうしただけですよね?」
「いやああああああ!」
ナナは頭を抱えてうずくまる。

「でも大丈夫です。私はそんなあなたを愛してあげます」
「え?……嘘」
「嘘じゃ無い、私は不幸でイカレてて、可愛いあなたが大好きです」
「……本当に?私、人殺しなのに?」
「人なんて放っておいても死にますよ?」
「でも、大切なもの全部壊しちゃう……」
「壊すこともまた……愛情です……」
「壊す……愛……?」
「さあ、帰りましょう。あなたの本当の家族が待つ、私達の家に……」
「帰る……家族……」
私は疲れ切ったナナを連れて家路に着く。
これで過去は清算できた。
これからが未来だ。



「ここが私の家?」
「そう、どこでも好きな部屋に住んでいいんですよ?」
「家族がいるの?」
「ええ、三人。どの子もナナとそう年は変わらない女の子ですよ」
こうして手を繋いで歩いていると、親子のように思われるかもしれない。
我ながらガラにも無いことを考えてしまいましたね。

「そこまでだ」
「ん?へぇ……まだ、生きてたんですね?」
この男、私に力を奪われただけでは飽き足らず、命まで落としに来たのか?

「おじさんはお前を許さない」
「許さない?いやいや、許して欲しいと言いましたっけ?」
「なんで、女の子にそんなことするんだよ……」
「そんなこと?まさか見てたんですか?」
あの孤児院にいたのか?
いや、そんなはずは無い。
あそこは中から出るのはもちろん、外から入るのも容易ではないはず。

「そんなの!その子を見たらわかる!」
「はぁ?推測ですか?そんなの、言いがかりの様なもんじゃないですか」
「その子……笑ってるように見えるか?」
「いいえ?笑うわけないでしょ?さっき大切な人を四人も壊してきたんですよ?」
「なっ!」
怒っている。
酷く、怒っているようだ。
でも、なにも出来ない。
彼にはもう、なにも……。

「それでもナナは幸せです。だって、壊れることが出来たんだから」
「壊れる?」
「もうなにも考えないでいい、気を使わなくても、後悔しなくてもいい」
「なにを言ってるんだ?」
「強がることも、恥じることも、壊すのを我慢することもねえ!」
そう、こんなやつにはわからないだろう。
壊れないと救われない人もいる。
ナナの様に……。

「いいですか!?壊れるっていうのはね!人の防衛本能なんです!これ以上は耐えられない、そうなった時に心を、身体を守る為のものなんですよ!でもそれを我慢する人間がいる!もうすでにキャパを越えているのに!心がすり切れているのに!耐えようとする子がいる!その子を救ってあげてなにが悪いんですか!?壊して何が悪い!お前にわかるか!私の気持ちが!お前の様に!ただ好きなように自分の力を使っていただけのバカに!なにが!なにがわかるんだ!」
「ねぇ……早くお家帰ろ……?」
「あ、あぁ、そうでしたね」
つい興奮してしまいましたか。
もう悩むことは無いんです。
苦しむことは無いんです。
こんなやつ無視して、さっさと帰りましょう。

「その子は昨日までの状態に戻る」
「なっ!?う!嘘だ!」
なぜだ!?まさか……力が戻ったのか!?
咄嗟に嘘を無効にしたが、こいつ!
しかしまだだ、すぐに私の力を封じなかったことを後悔するがいい。

「あなたの能力は使えない!嘘を本当にする力はあなたにはない!」
「嘘だ……その力は、おじさんを選んだんだよ……」
「……え?」
不意に後ろから声がする。
聞き覚えがある声、地下室でずっと唸っていたあの……。
まさか、さっきのは私の嘘を否定する為のブラフ!?
では今この男は!

「教授、君に嘘を本当にする力は無い。それに嘘を見破る力もね」
「う、嘘……うぎっ!」
殴ら……れた……?

「おじさん、手を上げたのは産まれてこのかた初めての経験だよ」
「な……う、嘘だ!その力は私のものだ!」
場を静寂が包みこむ。
どうなったんだ?
今……力はどっちに……?

「そこの君、ナナたんって言ったっけ?」
「え?」
「そのままおしっこするんだよね?」
「あ、はい……」
「ナナ?」
ナナはたったままスカートを、地面を濡らす。

「あ、そのパンツっておじさんにくれるんだっけ?」
「ええ、どうぞ……」
ナナはその場でパンツを脱ぎ、恥ずかしそうに手渡した。

「じゃ、そういうことで……」
「ちょっと待って下さい!」
「なに?いつまでも男の相手してるほど暇じゃないんだけど?」
「待って!力は!力は取り上げないで下さい!」
「いいよ?」
「ほ!本当ですか!?」
「うっそぉー」
「くうっ!」
この男……人をバカにして……。

「エマ!キズナ!ココロ!出てきてこいつを殺せ!ナナ!お前もだ!こいつを殺すんだ!」
せめて道連れにしてやる!
こいつを殺して、そして!

「来ないよ?」
「……聞こえなかったんですかね?……ナ、ナナ早くこいつを!」
「ナナたん寝ちゃったお?」
「このタイミングで!?」
「疲れてるからそろそろ眠いんじゃない?って言ったら寝た」
「あなたの仕業ですか!」
「この子は預かるよ」
「なんで!そんなことさせません!」
「ちなみにエマたんたちも預かってる」
「そんな!どうやって!?」
「あのさぁーおじさんだってかなり怒ってるんだよ?」
「え?」
「力奪われて、好き勝手されて、そこの……誰だっけ?」
「ショウタだよ!」
「ショウタ?を監禁されたりさぁ?」
「お前まず力使って俺のこと思い出せよ!」
「後にしてもいい気がするんだ」
「今でしょ!?」
なんだ?……なんでだ?
全てうまくいったのに……。

「反論するのも馬鹿馬鹿しいから黙ってようと思ってたんだけどさ?」
「は……い……?」
「別に教授の考えを否定はしないよ?考えは自由だし。でもね、おじさんはそうは思わない。壊れるより、みんなで笑ってる方が幸せに決まってる」
「でも!ナナは!エマやココロやキズナは!壊れないと救われなかった!」
「なんでそう決めつけるの?そんなの簡単じゃん」
「記憶を弄るんですか!?トラウマを無かったことに!?それではこの子達はこの子達では無くなる!」
「いや、別に大したことじゃなくねぇ?って思わせればいいでね?」
「は?……トラウマや心の傷を?」
「うん……乗り越えたんだよ、君たちは。って言ってやればよかったじゃん」
「そういう問題では……」
「教授ってさ、頭固いよね?別にさ?ズルしたっていいと思うんだ」
「ズル?」
「だってさぁ?それだけ辛い思いしたんでしょ?もう頑張らなくてよくねぇ?」
「そんな!人は自分で乗り越えて初めて!」
「そう思うなら、力なんていらないよね?いや、教授なんていらないよ?」
「ちが……う……」
「もっとさ?楽に生きていいと思う。もちろん、教授もね?」
そう言うと本当に立ち去ってしまった。

これまで私がしてきたことはなんだったんだ?
私が信じて来たことは?

いや、そもそも私はなにがしたかったんだ?
人を壊したかった?
研究を完成させたかった?
それとも……あの子達を……。

「あのさ、お取り込み中の所悪いんだけど」
「君は……」
「俺を監禁していた罪で、多分あんた逮捕されるけどごめんな?」
「え?……逮捕?」
「普通に通報しちゃったからな」
てへっと笑って去って行くその背中を見つめながら、私は全身から汗が噴き出るのを感じた。



「で?この後どうすんの?」
「この後って?」
「力戻ったんだし、この子とかも含めてまたあの子達と楽しくやるの?」
「なんで?そうに決まってんじゃん」
「あのなぁ……おじさんの嘘は俺には通用しないって知ってるだろ?」
「え?なんで?てか誰だっけ?」
「いい加減思い出せよ!」
「あのさ、ショウタ……」
「んだよ!思い出してたのかよ!」
「あの子達に……おじさんが愛する幼女達に伝えてくれないか……」
「なにをだよ……」
おじさんは夕暮れの道を歩きながら、ナナをショウタに預け来た道を振り返る。

「右手……骨折しちゃったみたいだから、遊ぶのもうちょっと後ねって……」
「えええ!?ちょっと殴っただけで骨折したのかああ!?」
「うん……超痛いの……」
「ならなんでこの子抱えてたんだよ!」
「柔らかくて……気持ち良かったの……」
「馬鹿なのか!?知ってたけど!」
「病院行く……」
「いやいや、それこそ……」
「あ、そっか……右手の骨折は完治した!」
「嘘だ」
「なにいい!?」
「いや、なんか……な?」
「もう!ショウタのバカ!お嫁に行ってやらないんだからね!?」
「いらねえよ!」
「ほら、さっさと帰るよ!みんな待ってる!あ、もう見えてきた!」
「んだよ!っておい!待て!」
大人げなく走り出す二人を、10個の小さな影が待っている。


みんな、ただいま……。
[ 2013/10/19 17:14 ] 小説 | TB(0) | CM(0)

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